植物が自ら天気予報!?夜間の低温を感知して夜明けの光応答を促進する
―センサ分子によって夜明け前後で誘導される植物の新奇プライミング機構を発見―
本研究のポイント
- ?植物は光に反応して気孔を開く気孔開口や、光に向かって伸長する光屈性などの光応答(注1)を日々誘導することで(図1)、周囲の光条件に合わせて光合成効率を最適化します。
- ?本研究では、植物の青色光と温度のセンサタンパク質であるフォトトロピン2(phot2)が夜間の低温を感知することで、夜明けの青色光応答を促進することを明らかにしました。
- ?晴れた夜には放射冷却(注2)によって地表付近の気温が下がるため、夜の低温を感知した植物は夜明け後に晴れると予測し、夜明け後の光合成を活発に行うために青色光応答を促進する「低温誘導性のプライミング」を示したと考えられます(図1)。
研究概要
環境の変化を予測し、それに先立って生理的な準備を整えることは、地球上の生物が最適な成長と生存を維持するために重要です。このたび、モデル植物であるシロイヌナズナにおいて、フォトトロピン2(phot2)というセンサタンパク質が夜間の温度を感知してプライミング(生理的準備)を引き起こし、夜明け後の青色光応答を調整する上で重要な役割を果たすことが明らかとなりました。本研究は、宇都宮大学バイオサイエンス教育研究虎扑体育の児玉豊教授を中心とする研究グループによって実施されました。メンバーには同大学大学院地域創生科学研究科博士後期課程3年の野口穂氏、博士前期課程2年の慶野壱星氏、研究支援者の高橋ひとみ氏(研究当時)、藤澤麻美特任技術職員が名を連ね、共同研究者として虎扑体育の山内翔太博士(現 東京理科大学助教)、武宮淳史准教授、日本工業大学の芳賀健教授、新潟大学の酒井達也教授が参加しました。
本研究成果は2025年1月30日付で Journal of Experimental Botany に掲載されました。
研究支援
本研究は、MEXT科研費(21H05665、23H04202、20H05905、20H05910)の支援により実施されました。
論文情報
- 論文名:Phototropin 2 mediates daily cold priming to promote light responses in Arabidopsis(シロイヌナズナのフォトトロピン2遺伝子は、日々、低温プライミングを介して光応答を促進する)
- 著者:Minoru Noguchi?, Issei Keino?, Hitomi Takahashi?, Shota Yamauchi, Mami Fujisawa, Ken Haga, Tatsuya Sakai, Atsushi Takemiya, and Yutaka Kodama*
*責任著者
?同等の貢献を示す - 掲載誌:Journal of Experimental Botany
- URL:https://doi.org/10.1093/jxb/eraf040
用語解説
(注1)光応答:
光の波長(色)、強さ、方向などによって植物が生理?成長を調節するしくみ。植物は、光合成では光をエネルギー源とする一方で、光応答では光を情報源として利用する。気孔開口、光屈性、葉緑体定位運動は青色光によって誘導される日々の光応答である。
(注2)放射冷却:
昼間の日射によって温められた地面が、夜間に熱を放出することで気温が低下する現象。放射冷却の影響は晴れた日に大きくなる。曇りの日には雲が断熱材の役割を果たすため、放射冷却の影響が小さくなる。